「ターミネーター4」(ノベライズ)

映画のノベライズ小説はシナリオの行間を適当に埋めただけのものがほとんど*1だが、中には映画でカットされた部分が復活していたり、著者による粋な書き込みがされてたりする場合もあり*2、一概にスルー出来なかったりします。
この「ターミネーター4」は、後者でした。
以下、映画にはなかった「これは!」という部分や、相違点などを箇条書きで。
(もしかしたら、『それ映画にもあったよ!』というシーンもあるかも。もしあったらご指摘ください。あと当然ネタバレ含むので『続きを読む』以降は自己責任で!)

  1. 人物描写が桁違いに多い

アラン・ディーン・フォスターの傾向として「アクション・シークエンスがおざなり」というのがあります。映画では大きな山場であったハーヴェスター登場からカーチェイス、そしてトランスポーターへのマーカス・ライト大立ち回りのシーンなどは実に短いページで処理されていますが、マーカス・ライトの戸惑いや、そんなマーカスを訝しむカイル、ジョン・コナーの内面などが映画よりはるかに多い尺を割いて描写されており、レジスタンスの面々などもキャラが掴みやすくなっています。

  1. コナーによるゲリラ放送の重要度が大きい

いかに彼の放送が人々の支えになっていたのかがしっかりと描かれていて、これはちょっと大きいね。これがあるなしで、終盤でのアシュダウンの命令に従わない部隊のシーンにいかにカタルシスが増すことか。映画版では、あまりにも「ジョン・コナー=未来の英雄」という設定に頼りすぎてはいないかな。観客了解済みの「運命の英雄」ではなく、いかに彼がその時代の人々に支持されるのか。そこを描いてもらわないと。そもそも、この放送の根っ子はサラの吹き込んだテープだろうし、ジョン自身、混乱に初めて秩序をもたらした放送の最初の発声者でもある。アクション・シーン以上に、重要な要素だよね。

  1. 旧シリーズとの、オマージュとは違う繋がり

映画のジョンは、まずクリスチャン・ベイルという最近よく見る俳優のイメージもあり、また、すっかり前線部隊の指揮官になっちゃってるので、イマイチ過去作品のジョンに重ならないのも個人的に残念な部分。それが小説版では、ジョン自身が旧作を匂わせる言動をとってくれるから嬉しい。
まず、アシュダウンにマーカスの言葉を理由にした作戦延期を拒否された後。単独で行動に移ろうとする自分に、過去の、誰にも「審判の日」を誰にも信じてもらえず施設に収容された母サラの姿を重ねて語るシーン。
そして、何故、不確かな、罠かもしれないカイル救出を決行するのか?自分を助けるために自殺行為を犯す息子を父親が喜ぶはずがない、と詰め寄るケイトに、彼、カイルがまさにそうして母を、ひいては自分を救ったからだと、応えるシーン。
個人的に、このシーンで、「あ、旧シリーズとT4が繋がった」と、思えました。

  1. ラスト・シーンが違う

ノベライズにはコナーが串刺しにされるシーンはなく、溶鉱炉&冷却作戦でケリがついちゃいます。そして、T-800*3からコナーを守る過程で重症を負ったマーカスを、コナーが必死に蘇生しているところへバーンズが到着。憎きマシーンを助けるコナーに愕然とし、コナーの言葉で救助に加わる一幕があります。このバーンスのくだりは、映画版ではあまりに不自然だったので嬉しいところ。映画で感じたコナーの「助けられっぱなし感」もなくなりますしね。*4
そして、マーカスが死んだと明示しないラスト。ここらへんは初期のマーカス@クリスチャン・ベール案の名残かもしれないですね。マーカスのキャラクターと演じるサム・ワーシントンに痺れた私としては、マーカス続投の可能性は「だったらいいなぁ」という感じです^^;
あと、極めつけは、マーカスが最後に見た「かもしれない」スターの目の中の「赤い光」!正直無理がある気がしますが、「ターミネーターの接近を感知する」という彼女の第六感の説明にはなりますね・・・さて、実際どうなんでしょう?
 
とまぁ、細々と面白い差異はあるんですが、やはりコナーとマーカスの関係にはもうちょい尺が欲しいし、アクション・シークエンスが占める割合の多いクライマックスが淡白な文章になってたりと、大々的にお薦め出来る小説ではないのが残念。小説としての出来は、プリクエルの「〜廃墟から」の方が断然上なのでした。
それでも、パンフレットよりはお安い文庫なので、映画観て「副読本が欲しいなぁ」と思った人には若干の満足を与えてくれるかもしれません。

ターミネーター4 (角川文庫)

ターミネーター4 (角川文庫)

*1:特に、外国映画のシナリオから日本人作家が小説化したものが酷い

*2:スパイダーマン」「〜2」は素晴らしかった!

*3:ノベライズでは明確な型番表記はされないが、コナー曰く「母を殺したのと同じターミネーター

*4:ただ、アガサさんの指摘するマーカスの行為をカイルがサラを助けた行為になぞらえる面白さはここにはないけれど。参考URL:http://sukifilm.blog53.fc2.com/blog-entry-575.html