「シャッター アイランド」(超日本語吹替版)短評


同行者の反応は「思ってたのと違う」でした。さもありなん。本作は、プロモーションが決定的に失敗している。
あまりに「謎解き」を前面に出しすぎてる。解き明かされた謎に「なるほど!」と膝を打つ類の作品じゃないのだから。少なくとも私は、原作を読んだ時、そう思った。
ねこめがね(旧ブログ):デニス・ルヘイン「シャッター・アイランド」感想
とは言っても、原作を読んでから結構経っているので、記憶があやふやな部分もあるのだけれど。ただ、「謎解き」よりも、ある部分に重きを置いていたのは確かだったと思う。
なので、てってきり「謎解き」路線に大改変してあるのかな?と予想していたのだけど、話の筋は原作にほぼ忠実。結果、観客に宣伝で期待させたものと別種の映画を見せる事になってしまっている。
驚いたのは、パンフレットを読むと、製作者であるスコセッシの意図も「謎解き映画」でなかったことがわかる。そこには「精神の旅」「怪奇」「幻想」「ゴシック調ホラー」「カリガリ博士」などの言葉が踊っているし、作中のテディの悪夢のビジュアルも、単にミスリードのためだけじゃない美しさ、不気味さがある。実際、オチの予想は、その美しいビジュアル故には容易だと思うし。
例えばティム・バートンギレルモ・デル・トロのような監督が撮っていたら、そっちよりの宣伝をされていたかもしれないけれど・・・パラマウント・ピクチャーズ・ジャパン宣伝部はちょっとミスチョイスをしちゃったかな。
さて、肝心の本編だけれども、そこにも実は、若干の不満があります。
幻想的な美しさを優先したが故か、回想でのドロレスの、ダークな部分がかなりオミットされている気がする。
そして、終盤のクライマックスとでも言うべきシーン。そう、真相の原因となるある事件の回想。あそこの「重さ」が、原作と映画では天と地の差がある。
映画のソレも頭で考えれば充分凄惨な事件なのだけど、原作とはあまりに訴えかけるものが違うんですよ。原作全体の記憶は前述のとおり明確ではないけれど、あそこだけはハッキリ覚えています。
何故あのシーンを短くしてしまったのか?何故一部の心の声を「台詞」にしてしまったのか?

全てが詳らかにされる終章、「そうだったのか!」とか「なんだ予想通り」とか思う以前に、明かされた凄絶すぎる真実に、<ある人物>同様、強く願う自分に気付くと思う。
頼むから、お願いだから<後退>しないで、と。
小説の中の創作の人物のために、久しぶりに本気で願った気がする。

原作を読んだ時、フィクションの登場人物に対して私は上記のように一心に願ったのだけど、映画では、そこまでの感情が喚起されなかったのがとても残念。
もしそうなっていたら、ラストの「原作と違う展開」にも、大きく心を動かされたと思う。*1
とても真摯に映画化されているだけに、そして「原作と違う展開」が、結構ズシンときただけに・・・とてもとても惜しい、だからこそ「つまらない」とか「駄目」とか言えない、ある種、とても心に残る映画となりました。
 
最後に。今回「超吹替版」を観たのだけど・・・どこらへんが超なのかサッパリでした^^;
まぁ、人物紹介テロップは出たけど、頻繁に出るわけでもなく、登場時だけだったし。「4の法則」についても、元々アルファベット向きな謎だしね・・・
もしかしたら、前述の不満部分に貢献している可能性*2は否定できないけれど、それは原語や字幕版で再確認するしかないかな。
デイカプリオの吹替えが「本人の演技」に劣っている可能性も充分ありますからね。それだけでもラストの意味合いが大きく変わりかねないですから。
だから、勿論DVDは購入予定です。
 
追記:
おっと大事なことを忘れていた!主人公が「偏頭痛持ち」というのは実に共感できるポイントでした。ベン・キングズレー演ずるコーリー院長が説明する「頭の中でガラスの破片云々〜」の説明も、「なに頭痛くらいで」的な扱いを受けることも多い偏頭痛持ちとしては、嬉しかったです。
おまけに、発作中の偏頭痛雷や明かりの表現がマジヤバでした。偏頭痛の兆候があったら一発で悪化しかねない表現で、そこにもリアリティを感じたり。そういう意味でも必見ですw

シャッター アイランド スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

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シャッター・アイランド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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*1:その「展開」あるいは「決断」は全面的には支持できないけれど、それでも心は動かされたと思う。その前の「仕込み」が充分であったなら

*2:なっちお得意の意訳の結果展開が改変されている可能性