丸尾末広版「芋虫」「パノラマ島綺譚」短評

江戸川乱歩は間違いなく、私のエログロ嗜好の原点の1つです。
いつ、少年探偵団シリーズを卒業してヲトナ向け乱歩作品の世界に突入したのかは定かではないのですが、確か、陰鬱な表紙が印象的だった春陽堂文庫で集めていたと思います。
今の書架にはないので、手放したのか、実家に放置しちゃったのか・・・集めなおそうかなぁ。

『芋虫』

原作未読。
きっかけは一時期TwitterのTLを賑わした映画「キャタピラー」談義。
その映画、私の耳に入ってきた前情報から「エロシーンが話題のバリバリの反戦映画」にしか思えず興味も湧かなかったんですが、『乱歩の原作云々』というTweetを見て「え!乱歩原作だったの!?」となりまして。*1
上でも書きましたが、江戸川乱歩は、間違いなく私のエログロ嗜好の原点のひとつ。
ただ、最近はめっきりご無沙汰でした。主に読みふけっていたのは中、高生の頃でしたから。
そして、件の「芋虫」は未読だったんですよ。じゃあ、これを機会に読んでみようか、と。
『丸尾のマンガ版もエログロ!』というお薦めも頂いたので、じゃあ読み比べてみっかな〜、と。
で、先に入手した丸尾版漫画から読んでみました。*2
戦争で声と耳と四肢を根元から失い顔にも酷い傷を負った夫を介抱する妻の話・・・なのですが、うん、こりゃ確かにエログロいや!
冒頭の回想で夫の惨状を目の当りにして卒倒したヒロインも、文字通り芋虫状態の夫とまぐわりまくりですから。劇画風に緻密に描かれたそのビジュアル、異質さったら相当なものです。
ヒロインが最初は卒倒するほど衝撃を受けた夫を色々な意味で受け入れる過程の心理描写は、多分、意図的に排除されているんでしょうね。
漫画としての構成もビジュアル優先です。
断片的で詳しく語らない心情描写とビジュアル優先のイメージは、なんだか、押井守のアニメ映画版「スカイ・クロラ」を思い出したりしました。*3
それにしても、色々なテーマを語りうる設定ですよね。例えば夫婦愛であるとか、夫婦の力関係の逆転であるとか、コミュニケーション不全の象徴であるとか。それこそエロのみにだって傾倒しうるし、反戦だって語れる。*4書き手によっていくらでも描き方を変えられる余地がある。原作の持つポテンシャルの高さが窺い知れます。
そんなわけで、ビジュアル優先とは言え簡単にページを捲れない、なんとも濃密な内容で、何度も読み返してしまう麻薬的な魅力があります。
これはアタリですよ〜。

『パノラマ島綺譚』

病的なユートピア志向の売れない作家が、急逝した瓜二つの金持ちに成りすまし、己の願望「パノラマ島」を実現するお話。
「芋虫」とは反対に、こちらは主人公人見広介の視点で細かな描写がされていて、広介が旧友菰田になりすます過程とか、パノラマ島建設を実現する道程とか、原作で感じた一種のカタルシス再び味わえてとても嬉しいですw
そして、圧巻はパノラマ島のビジュアル!
これ、私の想像と全然違ったんですよ!
昔原作を読んだ時には、もっとジメっとして暗い、「楽園」というより「地獄」に近いイメージを抱いていたんですよね。*5
あと、確かTVドラマかなんかにもなっていたはずで、うろ覚えなんですけど、そのドラマでのパノラマ島も暗いイメージだったんですね。クライマックスは夜だった気もしますし。*6
ただ、このパノラマ島も実にイイ!これはこれでアリです!本当に別世界みたいで、さりとて「ありえねー」とは思えない説得力もあって。これはもう丸尾先生GJです!
こうなると、原作を読み返したくなりますね〜滅茶苦茶久しぶりなこともありますし、かなり違った感想になりそうで楽しみです。
さて、そうなると、どの出版社のバージョンを入手するかですが・・・入手しやすさからいえば角川文庫版あたりですが、ここはやっぱり原点に立ち返って春陽堂文庫版かなぁ?

芋虫 (BEAM COMIX)

芋虫 (BEAM COMIX)

パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)

パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)

*1:実際には公式な映画化ではなく、シチュエーションが『まったく同じ』なだけみたいですが(^_^;)

*2:自分の店のコミック・コーナー見たらあったというw

*3:これには異論のある向きも多いでしょうが、あくまで個人の印象ですので^^;

*4:多分、映画「キャタピラー」はこれが主軸なんでしょうね

*5:多分、子供だったせいもあるんでしょうけど

*6:漫画版だと昼間です。映画としては夜の方が映えるでしょうね。なんたって花火ですし!