「劇場版 機動戦士ガンダム00(ダブルオー)-A wakening of the Trailblazer-」短評


機動戦士ガンダム」に対する私の不満その①。1作目で人間の進化の可能性を描いておきながら、続編や以降のガンダムブラドの作品群で、それ以上突っ込まないところ。*1
不満その②連邦が諸悪の根源であるのは劇中の人物にとっても明白ながら、絶対に主人公達が連邦を倒す、という話にはならないこと。
ともかく、「現状維持」の物語なんです。
その理由はいろいろあるでしょう。人間の進化、というSF的展開のその先を製作者側が思い描けなかった、とか。あるいは、そういう展開が「兵器をカッコ良く演出して玩具として売る戦争アニメ」と喰い合わせが悪かった、とか。
連邦という説得力のある巨悪が倒れるところを想像できなかった、というのもあるかもしれません。単にガンダムという大ヒットブランドが築いた「土台」を破壊することに躊躇があっただけかもしれませんが。
所謂「1年戦争モノ」でないガンダム作品でも、それは基本的にはかわりません。唯一「機動戦士ガンダムSEED」は主人公を連邦的存在の「連合」に歯向かわせましたが、残念ながら歯向かわせた以降の展開を何も考えていなかったことを続編で露呈してしまいました。
最新作である「機動戦士ガンダムOO」1stシーズンは、最初から主人公を反体制の謂わば「テロリスト」として描き、そこは斬新でしたが、「テロリスト」=「主人公」という図式を落とし込むのに多少の無理を感じました。
そして2ndシーズンでは「陰の巨悪」が登場し、物語は一気に陳腐なものに・・・
なので、この劇場版にもあまり期待はしてなかったんですよ。「敵が宇宙人」と聞いて、「ほほぅ、お手並み拝見!・・・ま、劇場版だし枚数かけたMS戦くらいは観れるだろう。少なくともGN-X*2は観れるし☆」程度の気持ちで・・・
すみません!とても面白かったです!!><
1stシーズン⇒2ndシーズンと私内では評価を落していた「ガンダムOO」、まさかの形勢逆転です!これはちょっとあまりない現象ですよ!?
と、興奮しつつも、「コレ・・・叩かれるだろうなぁw」と思ったのも事実。
それは、ガンダム・ブランドが頑なに死守してきた「保守的」な部分を、思いっきり壊しているからなんですね。
私は逆に定石を破ったところを大きく評価したいのだけれど。
どこらへんが不興を買いそうかというと・・・
※以下ネタバレです!自己責任でどうぞ!!
  
   
   
    
   
   

  1. 異星生命体とのファーストコンタクト映画である
  2. MS対MSの戦いがない
  3. 主人公の新型機ダブルオーQAN[T]があまり活躍しない
  4. ビリー・カタギリがリア充

観ていて私が最初に想起したのは「ガメラ2 レギオン襲来」でした。ある意味「怪獣映画」なんですよ。
そして、敵は宇宙生物です。都合よくMS大の人間形態だったりしないので、当然MS同士の殺陣はありません。*3私は都合の良いパターン(笑)や、むしろイケメン揃いで肌の色が違うだけの連中を想定していたんですけどねw
赤かったり3倍のスピードだったり仮面被ってたりする凄腕パイロットの宿敵MSとかは入り込む隙間がないんです。
『ガンダムが怪獣と戦う』という展開は、反発を容易に予想できます。
「巨大ロボットが兵器」、「イノベイターという超人化」というフィクションは許せても、「宇宙生物」は許せない心理、私もガンダマーのはしくれなので理解は出来ます。
そして何より、新型ガンダムの最終必殺技が「対話」!凄い破壊力のビームやサーベルは、勿論出てはくるんですが(笑)そのクライマックスがボロボロに損傷しながらの激闘ではなく、「対話」なのは、おそらくスポンサーの制約の厳しいTV放映では無理な展開でしょうし、「カッコイイ兵器としてのMS」を求める向きには不満でしょう。
最後のビリーの件は、冗談ですwまぁ・・・2期は実に情けない役回りだったしね!お幸せに♪
  
とまぁ、不評は容易に想像できるんですが、「そこ」が私にとっては好印象だったのですよね。
「ファースト・コンタクト映画」になったということ。これは本編で完璧とはいかないながら突き詰めようとした「相互理解」というテーマ、その再戦にはピッタリのチョイスですよね。
2ndシーズン終盤で明かされたツイン・ドライヴのバースト状態における<イノベイター>と化した刹那を中心とした意識の共有現象。そこに特化して開発されたガンダムダブルオーQAN[T]。そして最強の量子演算コンピューターの妖精さん(笑)と化したティエリア。
TV版で仕込まれたそれら要素の合わせ技で、未知の知的生命体とコンタクトを図るラスト!まるで、TV版終盤から仕込まれていたかのようにこの劇場版で活きるそれら要素のコンビネーションには、ちょっとした感動すら覚えました。
この劇場版のクライマックスのために仕込まれてたんじゃないか?と、錯覚するほどに。
  
確かに「戦争アニメ」の文法からは離れすぎています。
スターウォーズ観にきたらスタートレックだった、みたいな感じでしょうか?
うん、確かに、ラストに外宇宙に旅立つスメラギ号を迎えるのは、まさにスタトレ的展開に違いない。
まぁ、「ファースト・コンタクトSF」としてはちょいと捻りが足りないかな?とは思いますが、それを「ガンダム」でやったのは凄いです。
しかも、TVシリーズからのテーマから外れることなく、むしろ突き詰めた形に昇華し「完結」させるとは・・・
単なるファン向けの人気キャラ、新MSの販促的活躍のオンパレードに堕さず、意欲的に定石を壊し、しかしテーマはキッチリと守ったスタッフには、賞賛しか浮かびませんよ。多少の不満点など、それに比べれば瑣事です。*4
  
他にも上手いなぁ、と思える点がいくつもあって。
結構「笑えるシーン」が挟み込まれているんですよね。主にカタギリ関係とコーラサワー関係ですけどwその配分がこれまた上手かったなぁ、と。
さらに、侵略SFテンプレに従いつつ、詰め込み感というか、駆け足な部分が全然ないんですよ。
2ndシーズンで大幅な人員整理をしてあるとはいえ、それでもレギュラー・メンバーは結構いるし、新キャラだっている。
その上で、異星体の地球圏への侵入や、人知れず始まる侵食、そして異星体の発覚から政府の対応など、結構丁寧に描かれているんですから、いい意味で吃驚しました。
これには前述の「TV版終盤から仕込まれていたかのよう」なのが大きく貢献しています。テーマや、展開にかかわる重要なガジェットの説明が、既にTV版で説明済みなわけですから。映画本編で「解説」が不要なおかげで、ストーリーの流れに総集編臭さはなく、カタログ的な見せ場の羅列だけ、みたいな感じも皆無。実にスムーズです。
そのかわり、TV版1st、2ndシーズンのストーリーをある程度把握していることが、鑑賞の前提条件ですけどw
まぁ、TV版に関心のない人がこの映画に足を運ぶとは思えないので、正解だと思いますけどね!
そして、「相互理解」の対象を「人々」から「異星の知性体」にしたのも、実は凄く上手いと思うんですよ。そりゃ「宇宙人」はガンダム世界では異分子ですよ?「リアリティなくなる」という意見も、前述のとおりわかります。
でもね?「ダブルオーQAN[T]のトランザムバーストで全人類が分かり合って恒久平和が実現しました!」って、なんかリアリティ感じられなくないですか?^^;
それよりも、「ダブルオーQAN[T]のトランザムバーストで宇宙知性体と意識共有できちゃいました!」の方が「受け入れやすい」というSF的レトリックw
実はコレ、「よりデッカイ問題を持ち出して煙に巻く」ある意味反則技なんですが、そこを含めて上手いなぁ、と。
   
そんなわけで、個人的にはオススメです!
確かにガンダムのテンプレからは外れてますが、少なくともOOを好きだった人は「テーマ」について考えながら観ていただけたらと。TV版の「相互理解」というテーマからブレていないということに気付けば、受け入れられるんじゃないかな、と思います。
あ、そうそう!劇中映画「ソレスタル・ビーイング」!これには危うく大爆笑w正直、「これ本編だったらどうしようw」って心配しましたよw
あー、もう1回くらい観たいなぁ。

多分、劇場版Blu-rayが出る頃にBlu-ray BOXも出ると見た!

*1:ちなみにWガンダム、ガンダムXは未見

*2:私が一番好きなMS。勿論初代が一番です♪アヘッドばくはつしろ☆

*3:終盤、宇宙生物が擬態したMS状のものが登場はしますが、「MS戦のため」というより、そう期待させた裏で「宇宙生物の真意と生態」を描くためだと思います

*4:洒落ではありませんw