「シャトゥーン〜ヒグマの森〜」(漫画版)

シャトゥーン~ヒグマの森~ 1 (ヤングジャンプコミックス) シャトゥーン~ヒグマの森~ 2 (2) (ヤングジャンプコミックス) シャトゥーン 〜ヒグマの森〜 3 (ヤングジャンプコミックス)*1
原作、増田俊也「シャトゥーン〜ヒグマの森〜」(宝島文庫)。作画 奥谷通教。集英社BLコミック刊。
 
チラっと中を捲ったら人体破壊や切り株やらがなかなか真正面から描かれていて、しかも、全3巻というコンパクトな内容だったので購入してみたのだが、これがもう大当たりで。
話の筋はいたって簡単。殺鼠剤の影響で森の小動物が死滅したため、冬眠をし損ねた*2飢えた仔連れのヒグマが、研究小屋に居合わせた一団を襲う。そんだけ。
このヒグマが超怖い。なんで怖いかというと、「寒くておなか減ってるからなんだか滅茶苦茶狩りやすくて捌きやすいニンゲン食えて、ちびちゃんも幸せで超ラッキー」という、完全にヒグマ理論で動いてるだけ、というとこが怖い。
ニンゲン目線で見れば愛する人やいたいけな妊婦でも、ヒグマ目線だと「あたしが狩った獲物」に過ぎず、腕をもがれ、顔面を食い千切られ*3、生きたままむしゃむしゃ喰われるグロテスクな様子も、単に「食卓囲んで晩御飯。残り物は冷凍保存で」にすぎないという。当然、「横取り超許さない」。
ヒグマにはまったく悪意がなく、単にヒグマ都合で動いているだけ。住処を追われて空腹なヒグマが運悪くニンゲンの味を覚えてしまった、という、それだけで、完全に相容れないニンゲンとヒグマの構図を正面から執拗に見せていて*4、それがもうとんでもない緊迫感と迫力を生んでいる。
そして、何気に「スラッシャー映画」の文法に則っているのもジャンル映画好きには嬉しい。*5
ヒロインがヒグマと同じく幼い娘を連れていたり、ヒロインとヒグマに浅からぬ因縁があったり、襲われる集団の中に自業自得な馬鹿がいたり、頼りがいのあるにーちゃんがいたり、最初に襲われるのは案の定カップルだったり。
そして、ヒグマの圧倒的な破壊力。漫画だから多少の誇張はあるだろうけど、もうね・・・アレはマジで化け物レベル。ジェイソンが可愛く見えますよ?大の大人がアッサリ攫われ手も足もなく手や足や首をもがれちゃいますからね・・・それがちゃんと「生き物のフツーの捕食行為」として描かれているから、なおさら鳥肌が立ちます。
ラストもまた王道中の王道で、スラッシャーや動物パニックの定石から外れることのない話運びなのだけど、「絶対に相容れないヒグマ都合とニンゲン都合」がしっかり描かれているので、話の筋が単純だとかそういう以前に純粋に怖い。
あれから何度も通して読んだけど、今でもふと1巻読み始めると3巻全て読むまで止まりません。この読み時をなくす感覚や、「完全に話が通じない相手との対立」という構図、そして「生きながらの解体」など、ちょっとケッチャム作品を彷彿とされるものがあります。*6
ツッコミどころもなくはないんですけどね。そこは一緒に連れてこうよ、とかね。ヒロインの娘さんが凄まじい惨状を何度も目の当りにしてるにしてはフツーだ、とか。
とはいえ、漫画では個人的に久々の大ヒット!動物パニックもので心底ゾっとしたい人は必読ですよ。
原作の小説版*7も今度読んでみたい。奈良の亀母さんに教えていただいた、作中でも言及される現実にあった羆害「三毛別羆事件」の吉村昭によるルポルタージュ「羆嵐」も読んでみたい。「三毛別羆事件」は、Wiki*8見ただけで鳥肌が立ちますよ・・・
熊映画も無性に観てみたいんですが、件の「グリズリー」は近場のTUTAYAにはないし、最近のDVDストレートな奴は皆駄目っぽいですねぇ・・・「リメインズ」とか、どうなんだろう?

*1:アレ、3巻は画像ないでやんの。Amazonつかえねー

*2:=穴持たず(シャトゥーン)

*3:クマはまず顔を狙うんだそうな

*4:なにしろ登場人物の半数が動物学者や元研究者なので、「ヒグマ都合」を嫌というほど理解している

*5:ん?スラッシャーと動物パニックの文法は似てて当たり前・・・か?

*6:あくまで「彷彿」ね。「隣の家の少女」とか「オンリーチャイルド」なんかの凹み具合には遠く及びませんが、「襲撃者の森」なんかよりはクるかも?

*7:このミステリーがすごい!」大賞で優秀賞受賞なのね

*8:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%AF%9B%E5%88%A5%E7%BE%86%E4%BA%8B%E4%BB%B6